B&B ITALIA MAXALTO

深澤直人氏

「B&B Italia Outdoor Collection 2020」、今年の新作はアントニオ・チッテリオ、深澤直人、フィリップ・スタルクと錚々たる顔ぶれによる意欲作がそろいました。どの製品も耐用年数を迎えた際にそれぞれのパーツを分解し、環境に配慮した廃棄処分ができるよう造られており、世界全体がサステナブル「持続可能な社会」を目指す中、B&B Italiaもまたブランドとしての社会的な責任を果たす努力をしています。特に深澤さんの新作<AYANA>は木質の構造体を見せてしまうプリミティブなデザインで、これまでの’’B&B Italiaのソファ’’の概念を変えてしまうような、新しさを感じます。この新作を通して、深澤さんがB&B Italiaと目指す「サステナブルとデザインの関係」について、お聞きします。

Sustainability

今年、発売になった新作の<AYANA>は、これまでのB&B Italiaにないコンセプトを感じます。サステナブルというテーマにも取り組まれたということですが、発想のプロセスをお聞きしたく思います。

開発には1年をかけました。とは、サンスクリット語で‘’安息の地‘’という意味なんです。シンプルな木の構造体にクッションをのせて、自然の中に居場所をつくる。クッションを外せば、そのまま自然に還るような木のフレームが残ります。プリミティブな発想です。丸棒状のナチュラルチークで、日本建築の木組みのような構造美に、北欧的なニュアンスを加えています。

<AYANA>コレクション

ソファ、チェア、ダイニングテーブル、ローテーブルを展開
天然チーク材を主役として用いることで、ナチュラルでオリエンタルな風合いを具現化している

B&B Italiaが得意とする金属の構造体を持つソファとはまったく違うデザインですね。

実は僕、B&B Italiaでソファをつくるのは初めてだったんです。とても楽しくて。B&B Italiaといえば構造体とクッションを一体化する ‘’張りぐるみ‘’の技術で世界一です。その会社で木質をむき出しで使うというアイディアは、彼らにとっても新鮮だったようです。

もっとも特徴的な木の構造には何の樹種を使っているのですか?

チーク材です。構造体に角材を使うのは一般的ですが、自然の中で採れた木材をそのまま蔓で巻いた、筏のような自然の雰囲気をだしたかったので、僕は丸い材にこだわりましたね。以前<TITIKAKA>というチーク材のベンチを作ったことがあって、その経験からチーク材を使ってやりましょうと。経年変化で木の色が深みを増すのを知っていたんです。ミャンマーチークはいま、伐採や輸出の制限が厳しくなってしまったので、インドネシアの環境保護された森で採れたチーク材を使っています。

さらにこの家具が使命を終えて、自然に還るときまでを考え、金物を使わない構造にしました。ホゾを切って組み込んで製造します。使っているとき、使い終えたとき、どちらの時点でも環境や自然と調和します。<AYANA>は柔かさと温かみを持つフレンドリーな雰囲気でしょう。

<AYANA>ソファの背面

釘やネジなど金属部品を排除し、木製ピンのみが使用されたジョイントで仕上げられている

Craftsmanship

着想を製品化するまでにはB&B Italiaの職人の力が生かされたと思いますが、具体的にはどんなところでしょうか?

新しいものをつくるには、まず素材開発が重要なんですね。B&B ItaliaのCR&S(研究開発センター)とのやりとりはお互いに妥協なく意見をぶつけ合うので正直大変なこともあります(笑)。私が描いたデザインから彼らが判断してそれを具現化していく。実際にプロトタイプを作りその場で調整していくのです。その中で今回は構造体にインドネシア産のチーク材と、テーブルの天面に使った「サーペンタイン」という石。「こういう石があるんだけど、どう?」と聞かれました。日本では蛇紋石といいますが、硬く水が染み込みにくく屋外で使うのに適しています。

今回初めて素材に採用したイタリア・ヴァレンコ産のサーペンタイン石

ほとんどゼロに近い吸水性、高い耐久性を持ち、美しさと堅牢性を併せ持つ

チークの丸棒はB&B Italiaとしては見かけないパーツです。最初のアイディアに対してどんな反応があったのでしょうか?

最初、アイディアを見せると背面の丸棒はコスト的に難しいと言われました。なのにデザインをよくよく検証すると、この部分は丸棒じゃないと美しくない、これじゃなきゃだめだって、ダメ出しした本人たちがそう言って、仕様を変えてきました。そのことを私は尊敬します。それによって生まれた平行のスリット、後ろ姿も美しいでしょう。

これまでの代表的なソファの脚はアルミのダイキャストで細いのに対し、このソファは木の構造の繊細さを見せつつ、太さを出してがっしりさせていく。現場でどんどん加工しながら検討していきました。

ブランドに誇りがあるんですね。しかも僕が最初に出した丸棒の直径ではちょっと細いねと言われました。太さを変えると豊かさが増し、その迫力の出し方はとても重要でした。このリッチな感じを持ってこないと、B&B Italiaじゃない。これが彼らの検討の仕方です。

自身のデザインし<AYANA>ソファでWebinarを行う深澤直人氏

座面や背面に関してはどのように検証しましたか?

手を置くアームのクッション位置をどうしようか。その決め所が意外と大切でした。ソファとアームチェアは一見同じデザインですが、座り心地を追求していく中でアームの高さをそれぞれ変えることにしました。B&B Italiaのソファは沈み込むような、包容力が魅力ですが、今回求められたのは座るとしっくりといく感じ。日本人的な座り心地ですね。

開発を進めて意見が共有されると、B&B Italiaはいつも納得のいく答えを出してくれます。CR&Sは本当に社内でもトップクラスの秘密の研究室。発表までは社員であっても絶対に新作は見られない。

アームの太さを検討しているCR&S(研究開発センター)での貴重な写真

今回は北欧風というか、温かみのある柄物のテキスタイルをクッションに多用しています。この点も意外な感じがします。

B&B Italiaはこの数年、ソファや椅子の張り地を開発する担当者が新たに加わり、テキスタイルのパターンをかなり変えてきた。南米風やボタニカル柄が多くて、配色も大胆。僕も最初は驚きましたが、自分にない色の発想に刺激されたところもあります。彼女が選ぶテキスタイルとの構造はとても相性がいいと思います。派手かなと思うんですが、自然の光の強さの中では意外と溶け込んで華やか。でもトロピカルじゃないよね。なかなか自分で選べないし、探してもなかなかないと思います。

場が華やかになりますね。

デザイナーとして私は保守的な方だと思っています。商品写真を撮影する現場でソファの張地とクッションの柄はどの合わせにしようか考えました。全体のコンビネーションは撮影しながら<COLOSSEO>を置いたりしている。このソファにはタイポロジーとして合うんじゃないなど、定石みたいな組み合わせを超えたいですよね。

<AYANA>アームチェア

テキスタイルが印象的

今回のアウトドアコレクションは近年の発表の中でも、個性的な新作が顔を揃えましたね

B&B Italiaはイタリアンラグジュアリーの象徴です。シックで落ち着いたものを出さないといけない。アントニオ・チッテリオがそのスタイルを守ってきた。その中に調和していかないと、B&B Italiaの担当デザイナーになれないようなところがある。お互いよい影響を与えています。今回はフィリップ・スタルクが入りましたね。同社の歴史の中では数々のスターが登場します。今後どうなるのか楽しみですね。

Outdoor

深澤さんにとってアウトドアリビングの楽しみ方を教えていただきたいです。

梅雨が多く、気候が熱帯に近くなってしまった日本の気象状況では、屋外で過ごす生活習慣はまだまだ一般化されていないですね。

イタリアが特にアウトドアライフが盛んということではないです。世界中のどこでも雨も降るし、寒い地域もある。だから本当に屋外というよりも、天候に左右されない内と外の中間領域を持つことが必要ですよね。そういう新しい空間を作りたいなと思っています。

僕自体も日常的に屋外で過ごせる場所を持っています。趣味で建てた小さな家ですが、自分の家具を置くことで、何もなかった屋外に過ごせる環境が生まれる。自然の空気が流れる環境で過ごすことが、自分にとってのアウトドア空間だと理解しています。キャンピングとはちょっと違う感じです。僕たちがつくるようなアウトドア家具を置くことで、そういう場所ができればいいと思っています。

深澤さんもステイホーム期間中は屋外でリフレッシュされたりしましたか?

はい。日本ではニューノーマルという言葉も使われていますが、海外では家で過ごす、屋外でくつろぐことは特別なことではなく、日常です。日本にも縁側など「外で過ごす」文化があります。また「夕涼み」など、屋外でくつろぐ時間帯の文化は世界的にありますね。

イタリアでいうアペリティーボですね(夕飯の前の時間帯に友人や同僚とカクテルを飲む文化。屋外のカフェやテラスを活用することが多い)

そうですね。イタリアでは16時を過ぎると、人々の気持ちが仕事からプライベートモードに切り替わってきます。アペリティーボはそんな心理の象徴。20時くらいに切り上げて、それから家庭で夕食。日本でも自粛になって家飲みが増えて、夕方から飲んじゃう人も増えたのではないでしょうか(笑)?

深澤さんも自宅で過ごす時間が増えましたか?

はい、長く座って「椅子の価値」が初めてわかりました。そして自分の気持ちがいかに働くことに向いてたか、自分の家をじっくり見て、自分が何に集中していたかを自覚して、他のことに目を向ける契機になった。B&B Italiaのソファに座ってズームで会議してますが、一方でくつろぎの時間が生まれる。自分の生活にもっと時間を投資してもいいんじゃないかと自然に思えるようになった。時間に余裕ができました。

B&B Italiaでは耐用年数を経たときに、持続可能な社会を維持できるように自然に還っていくように設計、デザインした新作が発表になっていますが、アウトドアで使う製品やデザインのサステナブルについてはどうお考えですか?

これまでの社会はものが古くならないということに、力を注いでいました。
ですが日本は「朽ちて良くなる」ことを美徳としてきた文化です。古びて当たり前。ピカピカ光っていることがいいわけじゃない。逆にそれが高級感を増します。それも考えた上でデザインをする。朽ちないけど、汚れて飽きてしまうのが一番環境に良くない。材料など、科学的なリサイクル性ではないように思えます。自分が使っていて良くなる、愛着を持てるものを生み出すことが一番デザイナーとしてのサステナブルの使命だと思っています。特にB&B Italiaではそれが重要です。

古びても自分が愛していけるものを選ぶこともサステナブルです。買うときには高額に感じてしまう人も多いでしょう。でも生涯使っていけて、毎日美しいと思えるものなら、大した値段じゃないということを伝えたいです。人生の時間を掛ける椅子。自分の住みたい環境もイメージしやすくなります。

金属や木材など自然に長持ちする材料を選ぶということを、建築や住まいなど伝統から学ぶことも重要だと思います。

取材・文=本間 美紀(ライフスタイルジャーナリスト)
写真=Daisuke Urano

深澤 直人氏 デザイナー

2003年NAOTO FUKASAWA DESIGN 設立。卓越した造形美とシンプルに徹したデザインで、イタリア、フランス、ドイツ、スイス、 北欧、アジアなど世界を代表するブランドのデザインや、日本国内の企業のデザインやコンサルティングを多数手がける。電子精密機器から家具・インテリアに至るまで手がけるデザインの領域は幅広く多岐に渡る。2005年発表作品よりB&B Italiaのメインデザイナーとして活躍。
https://naotofukasawa.com/