B&B ITALIA MAXALTO

B&B Italia<GINESTRA>チェアに座る
愛知ドビー株式会社 代表取締役副社長 土方智晴氏

この度発表する<2020 B&B Italia OUTDOOR Collection>は、耐用年数を迎えた際にそれぞれのパーツを分解し、環境に配慮した廃棄処分ができるよう造られており、世界全体がサステナブル「持続可能な社会」を目指す中、B&B Italiaもまたブランドとしての社会的な責任を果たす努力をしています。

愛知県発の鋳物ホーロー鍋「バーミキュラ」。製造元の愛知ドビーは1936年創業の鋳造メーカー。優れた鍋というだけではなく、消費者に長く使えるものを提供すること。良い仕事をする職人と会社がずっと存続できること。双方の調和を目指したビジネスモデルでも注目を集めています。B&B Italiaの家具の大ファンでもある、副社長の土方智晴さんにサステナブルな社会について伺いました。

Sustainability

土方さんは愛知ドビー創業家の三代目として、現社長であるお兄さまと奇跡的な再建を手がけ、無水調理で素材の味を最大限に引き出す、革新的な鋳物ホーロー鍋バーミキュラの製造に成功しました。その開発の苦労を教えていただけますか?

バーミキュラは、開発に約3年かかり、大きく2つの困難を乗り越えました。まず鋳物にホーローをかける技術が当時の日本にはまだなく、その開発に約1年かかりました。次に世界にはない密閉性の高さによって“無水調理ができる鋳物ホーロー鍋“として完成させるに約1年半かかりました。

なかなか製品が完成せず、苦心しながら試作を繰り返していたある日、奇跡的に一つだけいいお鍋ができたんです。その鍋でカレーを作ってみたところ、想像以上に美味しいカレーができあがり、兄に食べさせてみると、大嫌いだったニンジンを美味しいといって食べたのです。その後も1年以上開発が上手くいかない日々が続きましたが、その時の経験で、このお鍋さえできれば、絶対にお客様に喜んでいただける製品になると信じて、なんとか諦めずに完成させることができました。
今思うと鍋の密閉性や厚みはもちろん、材料の分量や火加減まで全部完璧じゃないと、あのカレーの美味しさにはならなかったので、本当に奇跡的な出来事だったと思います。

バーミキュラOven Pot Roundを使用した野菜の無水調理

素材の旨みを逃さない

B&B Italiaは創業者が1960年代に、ラバーダックの製造工程からヒントを得て、鋳型を用いたモールドウレタン製法によるソファの製造技術を開発したのが始まりでした。バーミキュラでのそういった技術的に成功を導いたヒントを教えて下さい。

私は愛知ドビーに入社してから、精密加工の職人となりましたが、バーミキュラの一番の特長でもある“究極の密閉性“を実現するためには、3ミリしかない薄い鋳物を1/100ミリの精度で削る必要があり、これが最初は全然うまくいきませんでした。そんな時、熟練の工場長が、削る前の鋳物をコンコンと叩いていました。何をしているの?と聞くと職人は「音を聞けば、振動の感覚で上手く削れるかわかる」と言います。私はその当時、職人の経験や勘は、今後のものづくりには必ずしも必要ないと思っていたので、最初は疑いましたが、実際にやってみると叩いた時の音と振動から、製品を削った時の状況が想像できるようになったのです。

精密加工する前に、叩いて音の響きを確かめながら調整している様子

そこから削る前に製品を一個一個叩いて、製品を固定するネジの締め具合を音の響きと手の感触で調整したところ、安定して1/100ミリの精度で削れるようになったんです。80年続けてきた職人の経験を生かすことで、バーミキュラの密閉性は実現したのです。

生涯を共にできるお鍋を生み出した土方さんは、「サステナブル」をどう考えていますか?

サステナブルは僕の中で大きなテーマです。20年以上前、大学でマーケティングの授業でこの言葉に出会ったとき、不思議と強く心に残ったのを覚えています。「持続可能な社会」ってどんなものだろうと。

愛知ドビーは家業なので、小さな頃は工場の敷地内に家があり、ものづくりの環境の中で職人さんと共に過ごしていました。ところが時の流れるとともにうちの機械が売れなくなっていった。「世界一の機械を作っている」と誇りに満ちた職人たちが、みるみる自信を失っていくのを見ていた私にとって、職人や会社の持続可能な成長というものは大きな課題になっていたのです。
そんな中で、いつも職人に囲まれて暮らしていた私にとっては、一生懸命手間暇かけて作られた製品を修理しながらできるだけ長く使っていただく、ということが、私のサステナブルに対する考え方になりました。

1500度に溶かした鉄からバーミキュラの形を作る鋳造工程

バーミキュラの製品を開発するときも、根本にあるのがまず最初に「いいものを長く使っていただく」という考えです。うちの製品は全部、リペアして新品のように使い続けることを目的に、最初から設計しています。鋳物ホーロー鍋を長年使っていただき、コーティングが剥げてきたら、ホーローを全て剥がして、再びホーローコーティングをするサービスです。これはとても難しいことで、再ホーローを可能にするためには、母材である鉄の鋳物を通常よりも3倍くらい強度を強め、製品が戻ってきたときに分解しやすくする。そこにとても細やかな工夫が必要なんですね。製品にストレスを与えないようホーローを剥がすのもかけるのも、大変な作業です。

Innovation / Technology & Design

B&B Italiaでは最高の製品を作り出す<イノベーション=技術革新>が企業理念のひとつですが、土方さんにとってイノベーションとは何ですか?

私はイノベーションって起こそうと思ってすぐに起こせるようなものじゃないと思っています。本当に良いアイディアというのは、そんなに頻繁に湧くものではないので、私は長い時間考え続けて“これはいいものになる”と確信したら、どんなに苦労してでもそれをとことん突き詰めて完成させていくタイプ。だからバーミキュラブランド創立から10年ほどで、鍋、ライスポット、フライパン、と3つの製品しか出せてない(笑)。

バーミキュラ フライパン26cmを使用して作るパエリア ミスタ

最新のプロダクトである「フライパン」は、ホーローの特性を利用して、食材から出た余分な水分を一気に飛ばす「瞬間蒸発」という調理機能を持ちながら、ホーローの弱点である欠けやすいという強度の問題を解決することで、革新的な製品となりました。その開発も日々ものづくりに向き合ったことの賜物です。ある日、工場でありえないような失敗があって、偶然ものすごい強度のホーローができた。これが使えるかもしれない、とそこから始まりました。毎日コツコツものづくりと向き合い改善を続けていると、ある日何かが積み重なる。それがイノベーションにつながると思っています。

バーミキュラ ライスポットは数々のデザイン賞を受賞していますが、機能を備える製品のデザイン性について、ご意見をお聞かせくださいますか?

道具は機能がデザインになっているのが一番美しい。このことを重視しています。装飾を排除して、機能をデザインへ昇華する。これに尽きます。

そんな視点からB&B Italiaの新作家具<Oh, it rains!>、素晴らしいと思いました。ソファの背もたれを倒して、座面を雨から保護することができますよね。僕は屋外で過ごすのが大好きなんですけど、アウトドア家具に雨用カバーをかけるのが面倒くさいし、デザイン性も損なわれるので好きじゃないんです(笑)。そのネガティブな気持ちや面倒な行為を、デザインにしてしまった。屋外家具を使うものにとって嫌な雨を楽しい体験に変えてしまった。さすがのフィリップ・スタルク、B&B Italiaですよね。

B&B Italia Outdoor Collectionフィリップ・スタルクデザイン<Oh, it rains!>

バックレストは座面のトップに折り重なり、座面とクッションを覆うことで雨から保護することが可能

バーミキュラのライスポットも、炊飯したら両手で蓋を開けなきゃいけない。ただの作業は面倒と感じるが、あえて効率化しないことでより、その製品を通じての体験を特別なものにしている。嫌な“作業“ではなく、楽しい”体験“にしているところに自社製品との共通点を感じました。

名古屋市の中川運河に2019年にオープンした「バーミキュラ ビレッジ」は、どんな思いで構想されたんでしょうか?

“最高のバーミキュラ体験“ができる場所を作ろうとういことで構想しました。バーミキュラで作った料理の味を楽しめるレストランやベーカリー、料理教室やショップ、鍋の製造を見ることができるラボラトリー、そして新製品や新レシピを開発するアトリエという機能があります。世界一素材本来の味を引き出せる鍋を製造する我々にとって一番お伝えするのが難しいのが“味“です。バーミキュラによって実現する味や使い心地を、実際に体験いただいくことが非常に重要だと考えています。

「最高のバーミキュラ体験」をテーマに“バーミキュラの料理の美味しさ”・“バーミキュラブランドの世界観”・
“メイド・イン・ジャパンのものづくり”を様々なかたちで体験できるブランドの発信拠点、バーミキュラ ビレッジ

バーミキュラを使って美味しい料理がつくれると、人を家に呼びたくなる。共有したくなるんですね。人と人の関係が変わってくる。それが一番大事で、体験を共有する空気・感覚を提供することを目指しています。

そんな土方さんですが、B&B Italiaの家具を本社やビレッジ、そしてご自宅で愛用していただいています。そのきっかけを教えて下さい。

まず圧倒的なデザイン性でファンになりました。長年愛され続けているマスターピースのような製品もあれば、毎年革新を起こし、新たな魅力的な製品も発表される。ショールームで実際に座ってみて、どのソファにもない座り心地を感じました。デザイン性と機能性の両立をしている状態はこれなのか、と感銘を受けました。

まず8年ほど前に本社に<CHARLES OUTDOOR>ソファを取り入れました。当時の私たちにはちょっと敷居が高い買い物でした(笑)。しかし社員も世界の一流品を使うことで、一流の意識を持てる。感覚を磨ける。そんな思いからでしょうか。また同時期から自宅で<BEND-SOFA>を使っています。座り心地がすばらしく、ずっと座っていたいという気持ちになります。自宅を新築した際にもともと使っていた<BEND-SOFA>を追加して大きく組むことにしたほどに愛着があります。その際には、約8年使用していても、座り心地や見た目にほぼ変化がないことに気づかされ、その耐久性の高さにますますファンになりました。

バーミキュラ ビレッジで使用されているB&B Italia Outdoor Collection<GINESTRA>チェア
お客様がこのチェアで過ごす心地よさを想像し採用された

B&B Italia Outdoor Collection<CHARLES OUTDOOR>ソファ

Outdoor

ご自宅でもB&B Italiaアウトドア製品をお使いですが、アウトドアリビングで過ごすことは土方さんにとってどんな意味がありますか?

私にとってアウトドアはキャンプみたいなアクティビティというよりも“日常の中で非日常を感じられる場所”という感じです。屋内からシームレスにつながる半屋外のアウトドアリビングみたいな空間が好きなんです。だから家を建てるときはアウトドアリビングを作ることを一番のこだわりとしました。

アウトドアリビングにこだわった土方氏のご自宅
屋内ではB&B Italia<BEND-SOFA><MIRTO INDOOR>ローテーブル、<OSKAR>ダイニングテーブル、<HUSK>チェア、
屋外では<GINESTRA>ダイニングテーブル、チェアを愛用

アウトドアリビングの存在は二つの大きな意味があると私は思います。
一つは、庭やテラスというのは、普段の暮らしではなかなか使用する機会が少ない。でも中庭のような、リビングのような、境目のない空間は「日常」になります。ふと外に出て外の風を感じる。屋外家具があれば屋外に居場所ができる。暮らしが豊かになる。

バーミキュラ ビレッジにある<CHARLES OUTDOOR>ソファに座る土方智晴氏
このソファは初め本社のキッチンスタジオで採用された

もう一つは、アウトドア家具が、部屋の中から見る魅力的なランドスケープの一部になるということです。外に出なくても、部屋の中から美しいアウトドア家具を見るだけでも、室内で過ごす時間がより豊かになります。

中庭に置いている<GINESTRA>チェアに座り、風に当たりながらお茶やお酒を飲む時間が大好きです。その体験をお客様に共有したいと、バーミキュラビレッジのレストランのテラスにも自宅同様<GINESTRA>チェアを採用しました。

バーミキュラを使ったおすすめアウトドア料理を教えてください。

子羊の香草パン粉焼きはお客様を招いた際に、ぴったりのおもてなし料理です。バーミキュラ ライスポットの低温調理機能を使ってラム肉をじっくりと完璧に熱をいれておいて、お客様が来たら、お客様と一緒にBBQグリルで周りだけカリッと焼き目をつける。どうですか?失敗がないし、楽しいですよ。自分の想像以上のお料理をお客様と一緒に作って一緒に食べられること、こんなに楽しいことはありません。

バーミキュラ ライスポットを使用した子羊の香草パン粉焼き

美味しそう!これからアウトドア家具や外で過ごす生活習慣は定着していくとお考えですか?

自分でアウトドアリビングを作ってみて、何倍も家が楽しくなりました。もっと普及していくと思います。そのために必要なのはやはり素材の開発などの技術革新、雨の時どうするかなど、室内家具とは違う大きなチャレンジだと思います。

そうですね、そのためにはそもそも地球が健康であり、世界の自然が素晴らしいという前提が大切ですね。最後にそんな世界市場に向けた抱負をお聞かせください。

アメリカ、中国、香港、台湾、韓国などで展開を始めています。そのあと、B&B Italiaのあるヨーロッパへも展開を考えています。すでに世界のトップシェフからの評価は高くて、早くヨーロッパでも販売してほしいとの要望を沢山いただいています。レシピも日本の料理というより、現地での「日常の家庭料理」をもっとおいしくできるというアピールをしています。作り慣れた味が想像以上の味になる。僕たちが提供したいのは、そんな感動です。

取材・文=本間 美紀(ライフスタイルジャーナリスト)
写真=kana sonoda

愛知ドビー株式会社 代表取締役副社長 土方智晴 氏

大学卒業後、トヨタ自動車に入社。原価企画などに携わる。
2006年、兄邦裕の要請に応えて愛知ドビーに入社。
精密加工技術を習得し、バーミキュラ全製品のコンセプト策定から製品開発までを主導する。
老舗鋳造メーカー愛知ドビーは、世界一、素材本来の味を引き出す鍋を目指し、高い気密性により「無水調理」を可能にするバーミキュラを開発。毎日使える鋳物ホーロー鍋は、使い込むほどに傷やホーローの剥げが生じるが、古いホーローを全て剥がし、再コーティングする修理にて新品同様に返ってくる。バーミキュラは一生使える鍋。
https://www.vermicular.jp/