B&B ITALIA MAXALTO

ミヤケマイ氏

2020年2月、延期となってしまったミラノサローネの開催前記者発表の場で、B&B Italiaのガブリエレ・デル・トルキオ氏が、家具の世界もサスティナビリティの方向に強く動いていくだろうというメッセージを発しました。世界の各方面で一般化している「サステナブル」の考え方は、アートの世界にも及んでいます。日本のアーティスト、ミヤケマイさんはいち早く作品に「サステナブル」のメッセージを込めています。

Sustainability

ミヤケさんは日本美術をベースに現代的な発想の作品で多くの注目を浴びています。まず作品に取り組むときは、どんなところから着想されるのでしょうか?

「場所」というものを大切にしています。私の作品づくりのスタンスの一つにサイトスペシフィックということがあると思います。「ここでなければいけない理由」を考えます。仕事の依頼を受けたらまずその場所に足を運び、土地の歴史や持ち味を感じることにしています。

特に私の制作は、日本的方法が根底にあります。そういう意味でも東洋の世界をまず理解することが大切でした。「アジアの世界は何で成り立っているか」ということを考えたときに、陰陽五行の世界―火、土、水、木、金と5つの世界の要素で、まさに自然そのものです。

銀座の資生堂のショーウィンドウのアートディレクターを務められていますが、企画にはミヤケさんらしい陰陽五行の発想が存分に表現されていますね。

SHISEIDO WINDOW GALLERY<金>の章 2019

Art Direction : ミヤケマイ Artist : 富田 菜摘
金属の廃材を再利用して製作されたラクダやキツネザル。新品の金属であればロボットのような作品になってしまうが、
人が使った痕跡が生き物としての柔らかさや温かみに繋がっている。

「SHISEIDO THE STORE」から広く文化を伝えたいということで始まった、新しい全体のコンセプト五行は私の作品の貫く陰陽五行というテーマと連動してました。

陰陽五行が表す循環する世界を表現したい。たとえば「金」なら、金属はゴミになっても不死鳥のように蘇ることを伝えたかったので、金属製の生活道具や廃材をアップサイクルして作品をつくる富田菜摘さんや猿山修さんのプロダクトであるカトラリーなど、をサステナブルな社会を象徴させるインスタレーションを作る為に、これらアーティストと一緒にお仕事をさせていただきました。

特にこの企画は街という社会と密接につながるので、美や文化に加え、調和を保ちながら健全な発展を続けていくサステイナブル社会や文化は美しいという新しいメッセージを届けてみたいと感じました。

他にも「土」で土に還る陶器のオブジェや、地面と作品が連続したような世界などを展開されましたね。一方でマイケル・アナスタシアデスのモダンな照明も同じ素材としてフラットに扱っている姿が、アートという枠を超えた発想で驚きました。

ミヤケさん自身が作品に込められるサステナブナルな社会への思いやメッセージがありましたら教えてください。

日本美術に季節感は欠かせないものです。ありのままを受け入れるということは変化するということ。西洋のようなざっくりとした変化の四季ではなく二十四節気。月末月初では季節が変わり、色や匂い、風の動き。それをつかむ繊細な感性を日本人は持っていました。

私の作品もそんな日本人らしさをすくい上げるものでありたいと思っています。私の作品のひとつに掛け軸があります。これも環境や季節と連動したアートだと思います。季節や生活にあわせてアートも変化しその逆もまた然りと思ってます。

地球温暖化で日本の季節も昔とは随分変わっています。過去の季語が成り立たなくなる日も来るかもしれません。来るべき変化や自然を受け入れ、楽しむ、考える、感じることがクリエイティブなことのように思えます。

掛け軸のアートは日本の伝統技術や工芸や自身のエスプリを生かした代表作品ですね。

画竜点睛2017

ミクストメディア 軸 撮影:鍋島徳恭

掛け軸は日本の湿度の中でまっすぐに掛かる芸術なんです。空調が効きすぎる環境では掛け軸は本来の美しさを発揮できない。軸があることで窓を開け外の環境を室内に取り入れる。そんな時、今まで生活から切り離れていた鳥の声や光や緑を感じてもらえればと思います。作品を通じて、鑑賞者が自然本来の姿に心を還すことができれば、サステナブルな世界に少しだけお手伝いできるかもと思います。大概作品は作り手だけで完成しません。

私もものがたくさんある時代に生まれ育った世代です。何かを無理やり作ろうという発想はないです。そこにしか存在し得ないものをつくることが大切です。その場をありのままに受け入れ感じる。何が必要かと考える。

最初にお伝えした「ここではなければいけない理由(サイトスペシフィック)」はサステナブルな世界の入り口なのもしれません。ものを捨てることには罪悪感があります。その場所にあるものを利用したり、そこにあるものの中から、私とのリンクを探しています。

Craftsmanship

ミヤケさんの作品はさまざまな職人の技術を結び、一つにまとめあげたものが多いです。B&B Italiaの家具もCR&S(研究開発センター)とデザイナーが協業することで、使って心地よく、美しいデザインのB&B Italia製品が完成します。多くの共通点を感じますが、ミヤケさんにとって職人技とはなんでしょうか?

B&B Italia イタリア本社にある研究開発センター

私はマルチメディアでかつ、日本美術的考えが中核にあります。日本美術は分業制を好み、あまりジャンルに垣根や貴賎を作らないというところが好きです。イメージを形にするために幅広い技術や世界を俯瞰にしてみること、虫眼鏡的に細かく素材や技術を知る為の出会いを大切しています。

たとえば掛け軸の職人たちとどういうことができて、どういう能力があるか、を読み込んでいきます。一方で、特殊なガラスや有機LEDの面状の発光体も、テクノロジーもクラフトだと思っています。

手作りだからアート、自然素材だからエコという考えにとられず、私にとってはハイテクノロジーも古来からの手工業も、おなじ職人技だと見て、自由に考えています。
伝統工業でも工業製品でも人間が何かをつくろうとする姿勢を持つものはすべて、手工芸です。アートと隣接する仕事だと尊敬しています。テーマに合わせて素材と技術のベストを引き出す、私はオーケストラの指揮者のような役割ですね。

ものづくりの現場では、偶然でできたものや職人が失敗とみなすものも、私にはびっくりするほど魅力的な場合があります。違う視点からの物語や可能性が見えるんです。これをまたお願いと言うと「失敗を再現するのは難しい」と困った顔をされますけど(笑)。

Outdoor

インテリアの世界では屋外で過ごす、アウトドアリビングのスタイルが広がっています。ミヤケさん自身が「アウトドア空間」について思うことをお聞かせください。

「われ」という言葉がありますよね。「私」でもあり、関西では「あなた」という意味もある。私も他者も混ざりあっている。虫や自然と私たちはなんとなく全部がつながっていて、たまたま体で分けられている。これがアウトドアで過ごすことの思想の根っこ。東洋思想は私だけ良ければいいという考え方に懐疑的です。

金沢21世紀美術館で「3匹の子豚」の藁の家を再現したインスタレーションを手がけました。鑑賞者を室内に招く体験型のアートですが、庭に生えた松をそのまま室内の床柱に転じたり、台風に襲われても藁はしなやかに強く、乾きがよかったり、外の声が室内によく響いて室外との一体感を感じたり、家の外と中の区別がつかない居心地よさを体験できました。

ブーフーウーの藁の家
東アジア文化都市2018金沢「変容する家」撮影:繁田諭
古来の日本家屋は南方式の建築様式で、まさに藁の家そのものだった。

西洋は自然や他者など自分に危害を加えるものから身を守るための家、日本は自然も他者も入ったり出たりしやすいお互い様で三方よしの関係。こういった東洋的概念は小さいことでも、社会的で長期の視点を考えると、サステナブルな社会が成り立っていくと思います。

地球が健やかでなければ、人間は外で過ごせません。単に屋外にいることだけがアウトドアではなく、室内と室外の境目を忘れ、自分の周りの状態を感じて心地よく受け入れることが真のアウトドアライフだと思います。

私がいま座っているソファ<HYBRID>も、室内にいるような掛け心地なのに、あれ、外にいるんだなと、室内外の範囲を忘れさせてくれます。

製品ができるまでに、耐候性の張地を開発したり、屋外で使いやすい構造を研究したり、優れた職人仕事や技術に裏付けられているのを感じます。美しいデザインなのに主張せず、私を自然でいられる状態に導いてくれるソファです。

日本でアートを取り入れる家が増えていますが、まだまだ一般には敷居が高く思われています。ミヤケさんからなにかアドバイスがあれば教えてください。

アートは難しいものではありません。一番簡単なのは自分が好きなものに素直になるということです。作品の良し悪しは見る人が決める、といつも思っています。自分でいいと感じるものは理由がなくていい。それで自分が見えてくる。そのきっかけとなってくれるのがアートだと思います。

特に日本美術は単体では成立しない、建築の一部であり、意匠の一部であるという出自があります。工芸も含めてシームレスにつながるんです。自分が好きなアートが積み重なると、アートが自分らしさを表現してくれます。家具でもなんでも、家がその人そのものになる。

ブーフーウーの藁の家
東アジア文化都市2018金沢「変容する家」撮影:繁田諭
青いビニールシートでつくられた藁の家の畳

最後にこれからの活動の予定を教えてください。

B&B Italiaのショールームにも程近い「明治神宮ミュージアム」の1階にて、神宮の杜芸術祝祭「紫幹翠葉-百年の杜のアート」関連展示で、扇面と軸の作品が展示されます。また、尾道のほうでは古民家を舞台にした旅館プロジェクトが進んでいます。今年から淡交社の月刊誌なごみにて、「物美遊山」という連載を開始しました。9月5日には富山県総合デザインセンターにてトークイベントに登壇します。

ミヤケさんらしい「その場所の声を聴く」を表現した作品を楽しみにしています。

取材・文=本間 美紀(ライフスタイルジャーナリスト)
撮影=yunkmr

ミヤケマイ氏 美術家

日本の伝統的な美術や工芸の繊細さや奥深さに独自のエスプリを加え、過去・現在・未来をシームレスにつなげながら、 物事の本質や表現の普遍性を問い続ける美術家。 金沢21世紀美術館エキシビション「変容する家」(右写真)、各美術館での展覧会、大分県立美術館「アート&デザインの大茶会 マルセル・ワンダー ス、須藤玲子、ミヤケマイ」、メゾンエルメスでの個展、BVLGARI「HOPE(希望)」をテーマにしたトークセッションにパネリストとして参加、銀座「SHISEIDO THE STORE」のウィンドーアートディレクターをとして、陰陽五行から文化を発信するアートをディレクションした。
2008年パリ国立高等美術大学校大学院に留学。
現在、京都芸術大学特任教授。
http://www.maimiyake.com/