MAXALTO 50TH ANNIVERSARY

1975 – 2025

設立時、Maxalto にはその創造的なプロセスに根ざした壮大な意味を持つ名前が与えられました。

それはベネチア地方の言葉 「massa alto(マッサ・アルト)=最も高貴な・至高の」という意味を持ちます。

 

この名称によって、Maxaltoは自らのアイデンティティを明確に打ち出しました。

すなわち、時代を超えた国際的な言語感覚と、職人的精神を宿したローカルな方言という二つの側面を併せ持つ、最高級の品質を追求するブランドであるということ。

言葉よりも手の動きに思いを託す、多くを語らずともその技がすべてを物語る職人の手仕事。そうした寡黙で実直な職人文化を体現するブランドなのです。

 

1975年、Maxaltoの物語は始まりました。

 

それは、B&B Italia の創業者ピエロ・アンブロージオ・ブスネリが抱いた、

「人の手によって受け継がれてきた伝統的な職人技を守り、称え、その命を未来へとつなぐ会社をつくりたい」

という願いから生まれた冒険の始まりでした。

 

当時、ウレタン成形技術を用いた革新的なソファで家具業界に革命をもたらしていたハイテク企業 B&B Italiaは、

もうひとつの側面、時を超えて受け継がれる手作業の世界と手を取り合うことを決意します。

それは、最新技術と伝統の融合にこそ未来があると信じた挑戦でもありました。

 

ブスネリ家が描いた夢は、アフラ&トビア・スカルパとの出会いによって形となり、

職人との対話を宿した、時代を超越した家具の傑作が次々と誕生していきます。

家具に耳を近づけると、今でも彼らの作業音や、

ものづくりを超えた美の探求を語り合う職人たちのささやきが聞こえてくるようです。

 

 

「 I am happy (私はうれしく思います) 」
と、アフラ・ビアンキン・スカルパはMaxalto創設初期の頃にこう記しています。

 

「Maxaltoでは、おそらく無意識のうちに、経験豊かな家具職人の技とのつながりを取り戻そうとする試みがなされてきたからです。無垢材や彫刻を施した木材を用いたり、芸術性豊かなブライアー・ルートを再び取り入れたり、フランス伝統のフレンチポリッシュを思わせる、あの透明感のある光沢仕上げを採用したり…。(本当は、Maxaltoのお客様に、実際にフレンチポリッシュが施された小さな木片を手に取っていただき、その違いを実感してもらえたらどんなに素敵でしょう)また、鞍縫いされたレザーや、ベルジェ―ルチェアに使われるフェザークッション、祖母たちの時代に流行したシノワズリを彷彿とさせるポリエステル塗装。そういったすべてのディテールを通じて、人が「自分も歴史の一部なのだ」と感じられるようにしたいのです。」

 

今日改めて読み返してみても、これらの言葉は今なお非常に的確で、本質を突いています。

そこには、技術や素材、そしてヴィジョンと質感へのこだわりが語られています。

そして何よりも、高品質な製品を日常の中に取り入れることで、

人が「自分も歴史の一部である」と感じられるような家具について語られているのです。

 

アフラ&トビア・スカルパとのこの最初の重要なコラボレーションを経て、1993年、Maxaltoは新たな章を開きます。

アントニオ・チッテリオ が唯一のアーティスティック・ディレクターとして指揮をとり、

ブランドの世界観をより一層洗練されたものへと昇華させていったのです。

 

アントニオ・チッテリオがMaxaltoに加わったとき、彼が重視したのは、

「真の審美眼を持つ人のための家具」というブランドのDNAでした。

それは、まるで熟成された上質なブランデーをゆっくりと味わうように

時間をかけてその美しさと価値を堪能するための家具づくりです。

 

チッテリオは当初、「20世紀初頭のブルジョワの住空間と嗜好」をテーマに掲げ、

戦間期のフランス・デザインに特権的なインスピレーションを見出しました。

 

とりわけ、モダニズムの硬質な幾何学に柔らかさをもたらした

ジャン=ミシェル・フランクらの世界感に共鳴しながら、時を経てなお、

現代の美意識を的確に捉える新たな表現を追求し続けています。

 

 

チッテリオはこう語っています。

 

「それぞれの家具は、その機能を語りながら、日常の中にある安心と秩序の美を讃える存在である。」

 

彼の言葉には、穏やかなプロポーションと触感の価値への深い敬意が込められています。

 

その思想は、ジョルジュ・ペレックの小説『物の時代(Les Choses)』 を思い起こさせます。

主人公のシルヴィとジェロームは、ブルジョワ階級への憧れを抱きます。それは、安全で守られた港にたどり着くことを夢見るようなもの。

ペレックは、理想のリビングルームをこう描写します。

 

「使い込まれた黒い革の大きなソファの両脇には、淡いチェリーウッドの本棚が二つ並び、その中には無造作に積み重ねられた本がぎっしりと詰まっている。」

 

さらに、ハバナ色のベルベット、小さな置物、旅の思い出や人生の記憶の詰まった品々へと描写は続きます。

そうした品々は、その金銭的価値ではなく、宿る記憶によってこそ、かけがえのないものとなっているのです。

 

チッテリオが 30年以上にわたり手がけてきたコレクションを辿ると、そこに広がる住空間の風景は、

ただ時代を超越しているだけでなく、「形容詞を持たない」 という点にこそ、その真価があります。

 

 

それはまさに、ジオ・ポンティが愛した概念です。

特定の時代や流行、装飾的な言葉で説明する必要のない、純粋で本質的な美を備えた空間。

それこそが、チッテリオがMaxaltoを通じて追い求めてきた世界なのです。

 

 

Maxalto のチェアは、それ自体が本質を語る存在であり、特定のスタイルの定義に頼る必要はない。

もしそれを表現するとすれば、語るべきは素材の質感、精緻に組み上げられた職人技による継ぎ目、

そして一時的な流行ではなく、あらゆる時代にふさわしい端正なラインである。

チッテリオは、こうした本質を的確に説明している。

 

「単なるプロダクトではなく、ひとつの空間の概念を生み出すことを目的としたデザインプロセスの始まりにおいて、

最終的なゴールは必ずしも明確ではない。ぼんやりとした最初のイメージを、少しずつ焦点を合わせるように研ぎ澄ませ、

形を、構造を、素材を、時間をかけて丁寧に組み上げていく 必要があるのだ 」

 

 

「私がMaxaltoと関わり始めたのは、1990年代半ばのことでした。その出発点には、ひとつの明確なヴィジョンがありました。

それは、“フランス的なブルジョワの舞台空間”という想像上の世界です。このイメージを念頭に、

最初のプロダクトを生み出していきました。美と機能をひとつに結びつけるようにして。」

— アントニオ・チッテリオ

 

 

Maxaltoのカタログをめくることは、アントニオ・チッテリオという建築家の軌跡を辿ることにほかならない。

彼は決して自らの名を前面に掲げることなく、作品の背後に静かに身を潜め、デザインの本質そのものに語らせる。

喧騒に満ちたこの世界で、その“静けさの美学”ほど雄弁なものはない。

 

 

今日、Maxaltoが提案する空間は、素材・ライン・カラーが織りなす静謐な調和に満ち、

その完成された世界観がもたらす喜びは、さらに新たなかたちで広がっています。

 

それは、顧客とともに家具というかたちで、「その人自身の肖像を描く」という創造的なプロセス。

ひとりひとりの感性や暮らしに寄り添いながら、個人の美意識を空間の中に映し出していくことこそ、

現代のMaxaltoが提供する、豊かさの本質なのです。

 

 

専門家の導きのもと、ひとつの家具をともにデザインすることそれは、真のラグジュアリーの表現です。

時間をかけ、丁寧に向き合い、耳を傾け、感性と知識を重ねながら形づくる豊かな対話そのものが、
Maxaltoの創造の本質にほかなりません。

 

50年にわたり、Maxalto の家具は、それをデザインする人の手、つくり上げる職人の手、
そして暮らしの中で愛おしむ人の手によって語り継がれてきました。

その物語は、世代を超えて受け継がれていくのです。

 

かつてアフラ・スカルパが夢見たように、その小さな一片の木材には、

職人の息づかいと手仕事の真実が宿っています。

そして今、それは言葉を発さずとも深く語りかけるものとして、
本物のクラフツマンシップの価値を理解する人々の手に託されています。